Catch Up
キャッチアップ
このコーナーは官能小説家の長月タケオ氏が一般の中高年読者から寄せられた「性の告白」をご紹介するものです。そこにはシニアである我々同世代が共鳴する「あの頃」の時代背景があり、実体験ならではの生々しい「性の現実」があります。懐かしくも妖艶な古き良き官能の世界をご賞味頂ければ幸いです。編集長
【勃起薬を飲む時間を間違えてチャンスを逃す】
Y・K 64歳 埼玉県在住
元気がなくなりはじめたのは40代半ば頃のことだった。もちろん愚息のことである。
30代までは女の姿を見るだけで、始末におえないほどギンギンにおっ勃ったが、40歳になれば酒を飲むとダメになり、刺激を与えないとピクリともしない。それでも朝の元気は残っていたので安心はしていたのだが、やがて50代も終わりの頃になると、過激なエロ写真やポルノ映画、ビデオを見てもまったく反応を示さなくなった。
女房とは25のときに結婚した。一男二女をもうけ、50半ばで孫もできた。もはやオスとしての役目は終えていたし、ゆるんでしなびた女房を抱く気も起こらない。
「もはやこれまでか」
医者にいくほどのものでもない。けれど、今後どんなにきれいな女に出会ったとしても、奥まで貫き通すことは出来ない。そう考えると、寂しさがじわじわと感じられた。
そんなとき、高校時代の同窓会があった。久しぶりに出会った面々は、むかしの面影を少しは残しているものの、髪の毛が真っ白になった輩もおり、またまったくなくなってしまったものもいる。
そんな中、ガリ勉で有名だった男がいた。彼は医者の息子で親のあとを継いだらしい。強い近眼で痩身、いつも暗い顔をして本ばかり読んでいた男だったが、かっぷくもよく肌もつやつやしたタヌキ親父に変わっていた。
「いやあ、人生楽しまなきゃ。しょぼくれていちゃ、お迎えも早くなるってもんだ」
大声で笑い、話し、鯨飲馬食。人間、変われば変わるものだと、なかばあきれた顔で彼を見た。
「いったい何が、その元気の源なんだ」
わたしはたずねてみた。
「これだよ、これ」
彼は小指を立てて、品のない笑みを浮かべる。
「女か」
「そうだ」
「どうせカネにものを言わせてんだろ」
「否定はせんがな。けど、それで健康が維持できれば安いもんだ。適度な運動はできるし、血色もよくなるし、そのうえ気持ちいい」
「なるほど。しかし、アッチの方は大丈夫なのか?」
「元気元気。オレは医者だよ。なんとでもなるから」
「何が?」
「クスリだよ、クスリ。勃起薬だ」
噂には聞いていたが高価だし、なんといっても医者の処方箋がいる。そして「そこまでして……」という気もあった。
「本当に効くのか?」
「自分で試しているんだから間違いはない。なんなら分けてやろうか?」
「え? いいのか?」
「同窓のよしみだ。ただ、心臓に問題があれば別だが」
「それは心配ない」
「じゃあ、明日にでもうちの病院へ来い」
彼はわたしに名刺をわたしてくれた。
半信半疑ではあったが、何事も経験と割り切って、彼のところに出かけた。そして無事、錠剤を得る。
「いいか、少しでも苦しくなったりしたら、その後の服用はやめるんだ。とくに動悸や息切れ、不整脈が起こりそうなら」
「それほど強力なのか?」
「実際、命を落としている人間もいる。それほどに効き目は確かだ。それに、飲んだからといってすぐに効くもんでもない。個人差はあるが、まあ、1時間から2時間は余裕を持つことだな」
そんなものかと思いつつ、わたしは家に持ち帰り、さっそく飲んでみることにした。
水を用意し、恐る恐る口に含んでみた。もちろん、味も臭いもない。緊張と期待と不安で胸はドキドキするが、まさかそれくらいで命を落とすこともないだろうと考える。
「ふう」
わたしは飲み込み、様子をみた。しかし、まったく変化は起こらない。
「1時間待てといってたな」
手持ちぶさたにぼんやりしながら時間を待った。時刻は午後の早い頃。女房は留守にしている。
やがて1時間がたった。なんの変化も訪れない。
「もう少し……」
2時間が過ぎた。少し身体がほてるようではあったが、肝心の息子はピクリともしない。
「やっぱりダメか……」
裏切られたような気分で、わたしはトイレに立った。
「まあ、こんなものか」
最後のたのみと試してみたクスリでもダメ。これで本格的に、「お前は男として終わった」という烙印を押されてしまったことになる。
寂寞とした気分でズボンから愚息を取り出し、用を足そうとした。
「お、おおお!」
すると突然、身体中の血が激しく流れはじめるのを知る。力がみなぎり、かすかな痙攣まで起きる。そしてなんと、いままでピクリともしなかった一物が、ぐんぐん頭をもたげはじめるではないか。
「おおお!」
わたしは思わず声をあげてしまった。亀頭が真っ赤に染まってふくれあがり、茎がそり返って腹を打つほどに屹立する。
「これはすごい!」
わたしは自分の愚息を、ほれぼれとした目で見た。股間がそんな状態だから、欲求もわき起こってくる。とはいえ、すぐに試すことのできる相手はいない。仕方なくわたしは、何十年ぶりかに自分をしごいて鎮静させたのであった。
それからというもの、わたしの人生は一変した。町を歩いていても、女の姿が気にかかる。とくに肌の露出が大きい女を見ると、あとをつけて押し倒してやろうか、とも思ってしまう。
それまでは自分の中にあきらめがあって、何もできないからよこしまな感情や考えも起こらなかった。けれど、たとえクスリの力に頼ってでも十分交接が可能だと知ると、やはり若いころに味わった快感を求めてしまう。
「けれど、いったいどうしたものか」
身体がよみがえってはみたものの、適当な相手がいない。クスリを手に入れても、数には限りがある。新しく手に入れようと思えば、カネがいる。女房というのがいるにはいるが、せっかくだから若くてきれいな女を相手にしたい。
「そうだ、こういうときこそ」
わたしはソープランドに出かけたのであった。
「いらっしゃいませ」
あらわれたのは、ルイという名の若い女。色は白く、ほどよく肉もついている。わたしは時間を見はからい、店に到着する2時間前にクスリを飲んでいた。だからルイを見た途端、すでに下半身は大きくふくらみはじめている。
「まあ、お客さん、すごいのね」
服を脱がしてくれたルイはいう。
「ホント、お歳の割には……」
失礼な言い草だと思いはしたが、それでも男として自信がみなぎっている。ルイはまず、わたしの下半身をシャワーで洗って咥えてくれた。
ねっとりと絡みつく舌の感触と唾液の温かさ。大きな胸を揺り動かしながら、ルイはしゃぶり舐ってくれる。
「ああ、出る」
「うん、いいですよ、出してください」
わたしはそのまま、ルイの口の中に放出した。
1度出してしまえば終わりかとも思ったが効果は持続し、ルイのサービスにうっとりしながら愚息がしなびることはなかった。
「ホント、ほれぼれしちゃいます」
ルイはうっとりとした目でほめてくれる。
マットの上で1発、最後にベッドで1発。ルイのやわらかでうねうねしたオ○ンコをえぐるようにかき混ぜ、わたしはこの世の極楽を味わったのであった。
単純に一物が元気になるというだけで、気分も身体も若返ったようだった。それまで家にこもりがちだったのが、知人友人を誘って出歩くようにもなった。スナックやラウンジのホステスとも会話が楽しめるようになり、わたしはふたたび訪れた青春を謳歌していた。
そんなとき、町内会の連中と立ち寄ったクラブで美香というホステスと知り合った。歳は30代半ばぐらいだろうか、脂の乗り切った色気のある女だった。
胸もとが大きく開き、脚が全部見えてしまいそうなスリットの入ったドレスを身につけた美香は、わたしの席につく。わたしはかいま見える胸の谷間にちらちら視線を落とし、むっちりとしたふとももに、ついつい手を伸ばしてしまう。
「ダメですよ。まだ初めてお会いしたばかりなのに」
「じゃ、じゃあ、通えば……」
「ふふふ、考えてもいいですよ」
わたしはその言葉を信じ、なけなしのカネをはたき、ほとんど毎晩のように美香のいる店に通った。
思いが通じてか、通いはじめて3ヶ月も経ったころ、アフターの誘いに美香は応じてくれた。わたしは閉店後の美香をすし屋に連れて行き、そしてホテルへ。部屋に入ると、美香から身体をすり寄せてきた。
長い抱擁とキスが交わされた。美香の身体は思っていた以上にふくよかでやわらかく、わたしは心地よさに酔った。しばらく服の上から美香の身体を楽しんでいたが、彼女は顔を離すとつぶいた。
「あまり時間がないの」
美香は、そういうとすぐに衣装を脱ぎはじめた。
あらわれたのは、赤ん坊の頭がすっぽり入ってしまうのではないかと思えるぐらい巨大なカップをしたブラジャーと、横の部分がひもになったパンティ。乳肉はこぼれ落ちんほどに実り、少し下腹に贅肉はついているものの、彼女の艶やかさをそこなうものではない。肌の色は白くて艶を放ち、濃厚で甘い香りが漂ってくる。
わたしは興奮した。目の前にいる絶品な身体を、これから好き放題できると考えただけで昏倒してしまいそうな気分になる。
しかし、ここでハタと思い出した。
「そうだ、クスリ!」
わたしは彼女と一夜を過ごせるうれしさばかりが先立ち、勃起薬を飲むのを忘れてしまっていたのだ。
「どうしたの?」
うろたえているわたしを見て美香はいった。
「い、いや、あの、その……」
「ごめんなさい、ホントに時間がないの。明日の朝、早くて」
「あ、ああ、わかってる」
わたしは自分の下半身をながめた。1錠飲むだけであんなに隆々となるはずの一物は、ピクリとも反応を示していない。
「ちょっ、ちょっとトイレへ」
わたしはけげんな表情を浮かべる美香を残し、便所へかけ込んだ。
「間に合うだろうか……」
2時間も時間をつぶす余裕はない。けれどそれは何もしない2時間であって、女を触り、女から触ってもらえば、それなりに効き目は早くなるかもしれない。
「頼む、頼むぞ」
わたしは錠剤を飲み干し、祈るような気持ちで部屋に戻った。
ドアを開けると照明は落とされ、美香はベッドの中にもぐり込んでいた。じゅうたんの上には脱ぎ捨てられた衣装。シーツの中に見事な肉体が横たわっていると思うだけで、わたしの身体の芯がうずきはじめた。
「ねえ、はやくぅ」
美香はわたしを誘う。もちろん、いますぐにでもしゃぶりつきたい気持ちでいっぱいだが、なんといっても肝心のモノがいうことを利いてくれない。
「お願いだ、頼む」
「なに? どうしたの?」
「い、いや」
わたしは自分も裸になり、覚悟を決めて美香の横にもぐりこんだ。
全裸の美香は、それこそ白磁のような肌艶を保ち、触れれば吸いつくようななめらかさを手のひらに与えてくれた。わたしはふたたびキスをし、そして乳房に手を伸ばす。
「あん……」
美香は小さく艶っぽい声を出す。わたしは乳房にしゃぶりつき、乳首を吸った。美香はそれだけでも感じるのか、身をよじりながらわたしの頭をいだく。
「あああん、もっとぉ……」
舌の上で乳首を転がし、左手はもう片方の乳房へ。そして右手は美香の股ぐらへ。美香の部分はしっとりと潤い、指を入れるとぬるりとした蜜が絡みついてくる。
「ね、ねえ、ねえ、お願い」
わたしがしつようにこねくり回すと、美香はこらえきれないといった表情で哀願してくる。
「ま、まだまだ」
わたしはシーツをはがし、美香の股間に顔を埋めた。そして舌を伸ばして蜜をすすり、肉ビラをなぞり、淫豆を舐る。
「ああああああん!」
美香は絶叫する。ただ、そこまでしても、わたしは元気にならない。
「頼む、頼む!」
いくら念じてみても、どうしようもない。
「ねえ、わたしはもう、ねえ」
いつまでたっても挿入に至らないわたしに、美香は業を煮やしたようだ。
「いや、疲れているのか……」
「勃たないの?」
「まあ、その……」
「もう」
美香は少し怒ったような表情で、わたしをしごいてくれた。それでもダメ。
「ねえ、元気出してよ」
美香は口に含んでしゃぶってくれる。気持ちいいことは気持ちいいのだが、力はこもらない。
その後も美香はあれこれしてくれた。でも、ダメ。
「残念ね」
焦れた美香は、そういってベッドから降りた。
「も、もうちょっと」
「ダメよ。また今度ね」
そういい残して立ち去る美香。わたしはぼんやりと、彼女の後ろ姿を見送るしかなかった。
その後、時間になればきっちりと効果はあらわれた。しかし、あとの祭りだ。
数日後、わたしはリベンジのために美香のいる店に行ったが、彼女は辞めてしまっていた。
「チクショウ!」
それでもクスリさえあればまだまだ大丈夫。いまも次の女を探して、夜の街をうろついている。
【選者紹介】
長月タケオ(ながつきたけお)
1962年生大阪府出身在住。1988年官能小説誌への投稿でデビュー。
1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作受賞。
おもな著作『ひとみ煌めきの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)
『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)
『禁断の熟女』(ベストロマン文庫・共著)
『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)
『誘惑する女 熟女たちの悦楽』(九月堂・電子版)
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